2022年(R4)12月15日(木)2名

1年ぶりの丘陵歩きである。新型コロナウイルスはもう3年も経つのにいまだに収束しない。そのため、この3年は山歩きとは縁が遠くなってしまった。そしてロシアとウクライナの戦争もいつ終わるか見当もつかない。3年前にこの様な時代が来るとは誰が予想し得ただろうか?新型コロナもウクライナ戦争もどちらも収束の見通しは立ちそうにない。だから、こんな時は自然の中を歩くのが一番よい。というわけで一番手軽で電車だけで行ってこれる渋沢丘陵を歩くことにした。

八国見山からの富士山

渋沢丘陵は昭文社の山と高原地図「丹沢」では塔ノ岳から大山の南部にあり、地形的には丹沢山地の一部のように見える。しかし渋沢丘陵の成り立ちはおよそ4万年前で、70万年前の丹沢山地(※1)の後で地形的には大磯丘陵の一部になる。その大磯丘陵とは神奈川県南西部の大磯町を中心に平塚市西部(高麗丘陵)、秦野市南部(渋沢丘陵)、二宮町、中井町、小田原市東部(曾我丘陵)などにかけて広がる丘陵地帯です。丘陵歩きとしてはJR東海道線大磯駅北部の高麗丘陵には湘南平(千畳敷)、浅間山(せんげんやま:標高181mの一等三角点は日本の三角測量史の原点)、高麗山(こまやま:168m)が。同じく北西部に鷹取山(218m)が。JR東海道線二宮駅北西の吾妻山公園には吾妻山(135m)が。JR御殿場線上大井から国府津駅にかけた北東部の曽我丘陵には浅間山(317m)、不動山(328m)、六本松、高山(245m)がある。
大磯丘陵の「関東ふれあいの道」としてはコース7番に「大磯・高麗丘陵のみち」(7.6km、2時間30分)。コース8番に「鷹取山・里のみち」(8.9km、2時間45分)がある。このほか「かながわ県西地域ウォーキングコース」にも大磯丘陵が含まれているコースがあります。
※1:丹沢山地は1700〜1200万年前に南の海底火山が海洋プレートに乗って北上して日本列島に衝突し、500万年前に本州と一体化した。その後同様に北上してきた伊豆半島が100〜70万年前にかけて本州に衝突した。この圧力により丹沢が隆起して現在のような山地が形成されたと考えられている。その海底火山であった痕跡として丹沢各地の沢などから枕状溶岩や海洋生物(サンゴ・貝・オウムガイ・有孔虫など)の化石が発見されている。

大磯丘陵 高麗丘陵 曾我丘陵 渋沢丘陵 吾妻山公園 関東ふれあいの道 鷹取山

大磯丘陵概略図 クリックで拡大

そして、小田急線秦野駅から渋沢駅にかけた秦野市南部の渋沢丘陵は標高180m~280mほどの緩やかな丘陵で、丹沢表尾根や大山、富士山、相模湾、秦野市街地の好展望台となっている。見どころに国登録記念物の震生湖(しんせいこ)、渋沢丘陵最高地点の八国見山(やくにみやま:319m)、八重桜の里の頭高山(ずっこうやま:303m)などがある。「はだのハイキングガイド」を参照。そして、この周辺は将来的には大きく変貌するかもしれない。それは厚木秦野道路(国道246号バイパス)が渋沢丘陵を縦断して東名高速道路と新東名高速道路に接続される計画があり。現在、厚木秦野道路が伊勢原市境から秦野中井ICまでの事業化が決定しているためである。

白笹稲荷神社

渋沢丘陵の手前にある白笹稲荷神社は茨城の笠間稲荷、王子の装束稲荷と共に関東三大稲荷に数えられている。稲荷神は伏見稲荷大社に鎮座する神で食物神・農業神・殖産興業神・商業神・屋敷神である。稲荷神社のシンボルである狐は穀物を食い荒らすネズミを捕食したり、体の色や尻尾の形が実った稲穂に似ている。そのことから狐が農業神である稲荷神の使いとして位置づけられたようだ。今までなんとなく稲荷神社は狐を祭っているのかと思っていたが、そうではなく狐は「稲荷神」の使い(使者)なんだね。

白笹稲荷神社拝殿

白笹稲荷神社の拝殿(本殿)上部には見事な彫刻が施されている。一番上は狐が稲穂をくわえて走っている姿だ。その下は飛んでいる竜で鋭い目で睨みをきかせている。両側面の大きな牙のある動物は猪のようだ。そして正面を向いている2頭は狛犬だろうか。

渋沢丘陵から丹沢表尾根。三ノ塔(中央)、大山(右端)

白笹稲荷神社から直ぐの信号を渡り住宅地を離れ坂道を登っていく。農地の坂道が蛇行するようなところからは丹沢表尾根と秦野市街地が見渡せるようになる。写真右端の大きな山容は大山である。続いて岳ノ台、二ノ塔・三ノ塔(中央、一つの山のように見える)があり、更に表尾根の最高峰である塔ノ岳(1491m)へと続く。左側の三角のピークは同角ノ頭(1491m)であり、標高は塔ノ岳と同じである。ちなみに石棚山稜のテシロノ頭も1491mである。

渋沢丘陵からの富士山

坂道を登り切った尾根沿いの道路には震生湖の標識があり富士山が見える。西の渋沢方向へ数百メートル歩くと左に震生湖の駐車場へ下る通路が出てくる。以前震生湖に隣接してゴルフ練習場があったが現在は太陽光発電パネルが施設されて発電所となっている。震生湖にはこの通路を下ってもよいが、更に100mほど進むと左手に震生湖公園入口が出てくる。ここは福寿弁財天の入口ともなっている。これを下って湖畔を左へ行くと駐車場があり、隣接してトイレも設置されている。南側は芝生広場になっており幾つかのテーブルベンチがある。この広場には石造りの「震生湖登録記念物」解説看板や寺田虎彦の句碑なども設置されている。

福寿弁財天(ふくじゅべんざいてん)
日本三大弁財天の総本山である奈良の天河弁財天の分霊を頂く神社です。
学問、技能、音楽の上達に功徳があり、また女性には愛嬌を授け、美人となり良縁を得、子宝が授かると言われます。(秦野市観光協会より引用)

震生湖の鏡のような湖面

今日は少し冷え込んだが快晴で風も穏やか、震生湖の湖面は時折風がやみ鏡のように澄んで青空や紅葉を映しています。

震生湖の紅葉風景

震生湖はヘラブナとバスが釣れる湖として釣り人の中では有名なようです。以前あった売店が閉店となったようです。そして売店が行っていた貸しボートも廃止されたようなのです。道理で今日の湖面にはひとつもボートが浮かんでいませんでした。

震生湖公園の芝生広場(以前売店があった所)

以前売店があったところにテーブルベンチが置かれて公園の芝生広場になっています。ベンチどうしが離れているのもいいですね。グループなら気がねなくおしゃべりができます。湖には向こう岸へ渡る太鼓橋がかけられいる。

震生湖登録記念物の解説看板

震生湖は日本で一番新しい自然湖(天然湖)だって知っていました?なんと今年で湖が形成されてから99年です。来年2023年9月1日で100年になります。関東大震災から100年目を前に、この震生湖が国登録記念物になりました。震生湖は不思議な湖です。地下水脈でつながっていて地表での川の出入りはないのです。すなわち上流下流の川の水は伏流となっていて湖だけが地表に出ているのです。また意外ですが神奈川県の湖はほとんどが人造湖なのです。神奈川県の自然湖は震生湖のほかは火山活動により3000年ほど前に形成された芦ノ湖しかありません。

1923年(大正12年)9月1日の大正関東地震(関東大震災)の際に形成された。地震動によって付近の丘陵が200mにわたって崩落し、市木沢(いちきさわ)最上部をせき止めたことから、その川筋と窪地が湖となったもの。面積は13,000 m2、周囲約1,000m、水深は、平均4m、最大10m。 流入河川・流出河川ともに存在せず、地下水脈で周囲の水系とつながっている。(Wikipediaから引用)

震生湖が国登録記念物に登録されました。
震生湖は秦野市今泉と中井町境別所に位置しており、1923年9月1日の関東大地震で誕生した堰止湖(せきとめこ)です。
国登録記念物とは「遺跡関係」「名勝地関係」「動物、植物及び地質鉱物関係」などのうち、学術上価値のある文化財の総称を記念物と呼んでいる。2022年11月現在、全国で126件が登録されている。今回の震生湖登録は国登録記念物の「動物、植物及び地質鉱物関係」では全国で7件目となる。「国土の成り立ち、自然の特徴又は人と自然の関わりを知る上で重要なものであり」、「地域独特の自然物又は自然現象」に該当するとされた。

登録記念物 
震生湖 令和3年3月26日登録
この記念物は重要な文化財です 文化庁

震生湖は、関東大震災で滑落した土砂が川を堰き止めて誕生した湖で、地震の規模の大きさを伝える貴重な地質遺産です。
震生湖は、大正12年(1923年)9月1日の関東大震災により、中村川の支流である市木沢北斜面が約250mにわたって地すべりを起こし、滑落した土砂が河道を閉塞したことにより誕生した秦野市と中井町にまたがる堰止湖です。
地震から多くの年月が経った今日においても、堰止湖を構成する「湖面」「崩落地」「堰止地」が確認できる点において希少です。関東大地震の規模の大きさを今日に伝える重要な地質遺産であるため、令和3年(2021)3月26日に国登録記念物に登録されました。
周辺では複数の土砂崩れも発生しており、震生湖北西の峰坂で発生した土砂崩れでは、地震発生当時下校中だった南秦野尋常小学校の少女2人が遭難しました。坂上の台地上に「大震災埋没者供養塔」が大正13年(1924)に建立されています。
「震生湖」という名称は、大正13年(1924)頃に地元有志が地域資源として活用しようとして命名したものです。
震生湖は誕生直後から専門家による調査研究がなされており、昭和5年(1930年)には東京帝国大学地震研究所の寺田寅彦らの測量がなされるなど注目されていました。(現地解説看板より)

湖を眺めながら昼の休憩をしてから湖畔沿いの路を歩く。3年半ぶりの震生湖なので施設や風景も少し変わってしまった。ボートがないので湖面がきれいな感じもする。岸辺の要所に間隔をおいた釣り場で釣り人が静かに糸を垂れている。それらを見ながらなるべく足音を立てずに歩く。湖を離れると雑木林の中の登りになる。車道を左(西)の渋沢方向に進み「震生湖」バス停前を通る。ここからは車道を離れ直進して農道(舗装道)に入る。左に丹沢自然薯会があり山芋を販売している。人家を離れ農地の中の路を歩くようになる。

渋沢丘陵コース中間付近のパンパスグラス

丹沢自然薯会から栃窪集落まで1.5kmほどだが、人家はなく周囲は農地や山林などである。途中からは左手に相模湾が見えてくる、天気がよいので遠くの伊豆大島がうっすら見えた。更に歩いていくと大きなススキが農地の中に生えている。これがパンパスグラスで日本名はシロガネヨシ(白銀葭)という。パンパス(草原)という名前からもわかる通り、ブラジルなど南アメリカの草原が原産地である。草の高さは2~3mほどになり、細長い葉が根元から密生して生える。日本には明治時代に入ってきたようで「お化けススキ」とも呼ばれる。

栃窪集落へ下る直前から見える富士山 以前ここで撮影した写真を絵画風にアレンジしました

栃窪集落に下る直前の前方に富士山が見える。ここからの富士山は下り坂になる直前なので見落としてしまいがちだ。富士山の手前は松田山でチェックメイトカントリークラブのゴルフ場があり。富士山の左隅にはそのクラブハウスのとんがり屋根が見える。
栃窪集落からは道標の「頭高山へ近道」に従い直進して進む。天気の日でも薄暗い谷戸の中を通っていくようになる。谷戸を通り抜けると右側に鳥居があり小さなお宮がまつられている。ここから八国見山分岐まではもうすぐだ。

八国見山分岐での案内板

八国見山(やくにみやま)の案内板が出てくるので左に曲がる。この農道(NTT管理道路)を十数年前、曽我丘陵に行くために何度か通ったことがある。その時は八国見山という表示があったのかもしれないが、ほとんど関心がなかった。その頃に登った人の記録によれば、今のように明るい山頂ではなく木立や藪に囲まれた薄暗い山頂だったようだ。その後、南側の霊園開発などもあり八国見山が注目されるようになった。そして地元の有志などの活動で登り口が整備され富士山側の木立が切り開かれたようだ。だが秦野市や秦野市観光協会の渋沢丘陵コースマップには何故か八国見山は掲載されていない。想像するにこの山が私有地で登山道も完全でないためではないか。なお「神奈川の美しい広葉樹林50選」には31番目に掲載されている。現在、八国見山の南側には霊園が造られている。ここは従来の日本風の霊園ではなく西欧風の霊園のようだ。

八国見山のコース案内板

八国見山分岐から直ぐにコース案内板が出てくる。直進はNTT管理道路、右へ行くのは雑木林コースである。ここは直進する。5~6分ほど歩くと前方は行き止まり状となり霊園へ下って行く感じだ。右手は竹藪が切り開かれて路が造られている。どうやらこれが雑木林コースのようなのでこの路を進んでみる。150mほど行くと左手に階段が造られている。ここを登ると直ぐに八国見山の山頂があった。

八国見山からの富士山

八国見山の山頂は木立に囲まれているがベンチもあり明るい感じだ。そして何よりも予想外だったのは西側が伐り開かれていて富士山が見えることだった。渋沢丘陵の他の場所から見える富士山とは違った景色が見えるのだ。富士山の右が松田山でゴルフ場のクラブハウスが見え、この山麓も紅葉で色づいている。

八国見山の山頂風景

八国見山は八つの国が見えることから命名されたらしい。この山から見える八つの国とは、駿河(スルガ:静岡)、伊豆(イズ:伊豆半島)、甲斐(カイ:山梨)、相模(サガミ:神奈川)、武蔵(ムサシ:東京と埼玉・神奈川の一部)、安房(アワ:千葉県房総半島南部)、上総(カズサ:房総半島中央部)、下総(シモウサ:房総半島北部と茨城県南部)である。武蔵は横浜、川崎の一部も含まれる。ちなみに広島県にも八国見山という山がある。広島県庄原市、八国見山(やくにみやま)標高845m 。このほかには東京都東村山市の狭山丘陵(八国山緑地)に八国山(はちこくやま:89m)がある。

八国見山の山頂標識

しばらく富士山を堪能してから今来た階段を下り、今度は雑木林コースから分岐まで戻った。

畑の展望台から丹沢表尾根。塔ノ岳(中央)、三ノ塔・二ノ塔(右端)

ベンチのある見晴らしの良い「畑の展望台」で丹沢表尾根の景色を眺めながら休憩する。帰りは標識に従い頭高山方向へと進む。最初の頭高山分岐は直進して、次の頭高山分岐を右折して坂道を下る。下りきってから右折して進むと「千村生き物の里」が右下に見える。途中左に大きな農家があり無人販売所のミカンを購入してから渋沢駅に向かった。

コースタイム 歩行3時間30分 歩行距離11.5km 累積標高+424m -356m
秦野駅10:05→10:30白笹稲荷神社10:40→11:20震生湖(休憩)12:00→13:20八国見山13:40→畑の展望台(休憩15分)→15:00渋沢駅

 

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